-ホテル滞在にプラスしたい旅先ガイド-
公園と温泉、そして古よりの道と
湯けむりの地。
「箱根強羅」で
“クラフトマンシップ”の心に触れる

特別なホテル滞在に彩りを添える、立ち寄りスポットを紹介。
「箱根強羅」編では、思い出に残るクラフト体験ができるスポットを巡る。
箱根山の絶景とお湯を堪能することにプラスして、
小さなテーマを持って歩いてみたら、かつてない箱根強羅が見えてきた。
「箱根十七湯」といわれ、古より旅人を惹きつけてきた箱根に、今回は6歳になったばかりの娘と2人旅。最近はインバウンドのお客さんも多いと聞くが、なるほど、箱根湯本の商店街を歩いていると外国人客が目に入る。それは商店街の人たちの意識にも変化を与えたのか、外国人客にフレンドリーに話しかけ、道案内をする若旦那たちの様子が印象的だ。
観光客でにぎわう箱根のなかでも強羅は、早雲山東斜面の高台に位置する風光明媚で落ち着いた雰囲気が魅力。くねくねと旋回する道に苦心しながら歩いていくと、クルマでは見落としがちな興味深い発見がある。旧箱根街道の石畳の道もそのひとつだ。

石畳の道はひっそりとした山中にあるから、見つけるためには少し歩かなくてはならない。ちょっとひと休みというときは、江戸時代から変わらぬ製法で甘酒を造り続けているという〈甘酒茶屋〉に立ち寄りたい。この店は、今も昔も旅人にとって道しるべである。はじめての萱ぶき屋根、囲炉の灯、そして本物の甘酒に娘は興味津々だ。


散歩の途中で小腹が空いたら、箱根にあまたある名店ベーカリーの一番人気をゲットする。はしごしながらパンを選ぶのが楽しい。それにしても坂は大変だ……。娘に腰を押されながら、完全に息があがりそうなところで宿に到着。「箱根駅伝の山登りの人ってやっぱすごい」と娘が独りごちる。

箱根登山鉄道の強羅駅付近にある〈箱根強羅公園〉。案内には、大正3年(1914年)に開園した日本初のフランス式整型庭園とある。フランス式整型庭園とは、広大な敷地に左右対称、幾何学的に池などを配置した特徴を持つという。広い空と山々に囲まれた天然の公園の中に〈クラフトハウス〉がある。ここではさまざまな手作り工房体験ができる。

さっそく「吹きガラス」と「とんぼ玉」を娘がチョイスする。火を使うし子どもでもできるのかな? という不安はあったけれど。「全然平気。風船が膨らませれば大丈夫だって」と、もう案内のお姉さんと仲良くなっている。「吹きガラス」はクラフトマンがマンツーマンで付き、溶けたガラスを膨らませる。「とんぼ玉」はガラスの棒をバーナーで熔かし、鉄の棒に巻き取っていく。体験といってもプロがほとんど仕上げてしまうものとは違い、オリジナルを1から作る喜びがある。手作りだから形は少しいびつだけど、世界で一つだけのものを持ち帰ることができる。



「かまぼこ」と「焼きちくわ」作り体験も本格的だ。毎日かまぼこを作っている職人が、すり身を板にのせる実演を行う。続いて、かまぼこ包丁というプロの道具を使い、自らやってみる。……が、まったくうまくできない。不揃いすぎる。それでも娘は、「おいしくなあれ!」と言いながら器用にこなす。ちくわ作りは、棒に巻きつけて焼くだけだから簡単。その場で焼き上げてくれるから、熱々ぱりぱりの焼きちくわを楽しめる。



「ガラス細工」も「練りもの」も、子どもどころか大人だって普段なかなか体験できるようなものではない。出会った食や民芸などを買うのもいいけれど、自分で作ってみると旅の深度が深まるような気がする。どちらの体験を選んでも、子どもは子どもの、大人は大人の好奇心を満たしてくれる。
箱根は美術館の宝庫だ。ユネッサンの隣にある〈岡田美術館〉は、歴史好きの友人から「ここはちょっと信じられないくらいのものがある」と聞かされていた。たしかに、外からも見える巨大な壁画(福井江太郎作。『風・刻(かぜ・とき)』縦12m、横30m)に、オリエンタルな陶磁群、ゴージャスな金屏風の間など、娘の相手そっちのけで少年に戻ってしまう。岡田美術館のように、大人が楽しめる場所に子どもを連れていくのもたまにはいい。



先日、パン屋さんの大きなウインドウから眺めた、湖に浮かぶ神秘的な朱の鳥居を見るために、薄暗いうちに起きた。闇からうっすら蒼が射していくような刻。箱根神社の大杉に手を当て、湖に向かってゆっくりと階段を降りていく。


「空のほうを見上げてみて」。いつもは娘を立たせて僕が記念撮影するのだけど、今日は逆だ。そうだ。帰ったら朝食前にもう一回温泉に浸かろう。娘が一緒に入ってくれるのは今年が最後かもしれない。吹きガラス体験で作ったグラスは誰にあげるの? と聞く僕に、娘は満面の笑みで答えた。「もちろんママ!」……大丈夫、その笑顔だけで満足です。

旧街道散歩の後先に「ラフォーレ箱根強羅 湯の棲」
クラフトマンシップ体験や神秘的な箱根神社探索のあとには、リビングのように落ち着ける囲炉裏のある「ラフォーレ箱根強羅 湯の棲」へ。強羅の絶景と抜群のお湯、季節の料理で忘れられない滞在になるでしょう。
