ラフォーレと私 輝く魚 笑顔生む一皿に

ラフォーレと私輝く魚 笑顔生む一皿に

ラフォーレと私輝く魚 笑顔生む一皿に

蔵王で十年、修善寺で十年。ラフォーレのレストランで二十年の修行を積み、ラフォーレ倶楽部伊東温泉湯の庭の料理長に就任した榎本敏之さん。ホテルの料理人として働く日々のなかで、料理に対して考えていることを伺いました。

  • 榎本 敏之さん

いい仲間といい空間で榎本 敏之さん ラフォーレ倶楽部 伊東温泉 湯の庭調理課

ラフォーレとの出会いを教えて下さい。

青森の高校の調理科を卒業して、当時出来たばかりだった宮城県の蔵王にあるラフォーレのレストランに就職しました。蔵王では10年ほど勉強して、当時の料理長と一緒にラフォーレリゾート修善寺に異動しました。修善寺にも10年ほどいて、魚種が豊富な沼津港の市場に行って魚の見分け方を勉強したり、洋食の料理人と一緒に仕事をしたりして刺激を受けました。

いい魚の見分け方とは?

いい魚は物理的に光っています。遠くから見ても分かるんですよ。オーラがありますね。市場に入った瞬間に分かるくらいです。「あそこにあるオナガダイは間違いないぞ」っていう風に。きれいな魚は食べても本当に美味しいですね。沼津の市場で仲買人さんから教わったことです。とはいっても、そうやって買った天然物が、いざおろしてみたら、虫がいっぱいいて使えなかったという経験もありますけれど。天然物の怖さですね。

  • 修善寺勤務時代から付き合いが続く伊東活⿂直売センター修善寺勤務時代から付き合いが続く伊東活⿂直売センター

現在のお仕事の内容を教えてください。

2018年に料理長として伊東に来ました。料理長という肩書は初めてで、正直気が重かったです。それまでは自由気ままにやれていましたので。発言にも責任が伴いますしね。いまの仕事は料理を作ること、メニューを作ること、それから職場環境を整えることです。チームワークを重視して、ホテル全体で連携をとりながら「いい仲間といい状況で料理を作る」ということをコンセプトにしていいます。

メニューはどのように考えるのでしょうか?

春夏秋冬で会席料理のメニューを作っています。和食の基本的な構成を踏まえた上で、料理の内容を器から考えることもあります。倉庫に行って、秋らしい器を見ながら、刺身用の器だけど焼物で使ってみようかな、器の色に合う食材は何がいいだろう、という風に。

これまでに提供したメニューでおすすめは?

葱ま鍋という東京の下町の料理があります。4種類のネギとマグロのはらみの部分の鍋料理ですが、マグロは刺身でも食べられる新鮮な大トロを角切りで提供しています。煮込んでもいけますし、刺身としても食べられます。表面だけ熱でコーティングして中は激レアで食べても美味しい。お客様にはそのようにお伝えして、それぞれ好みに応じた食べ方をしてもらう、というのも面白いのかなと思っています。

食べる人の目線で料理を考えているということでしょうか?

お客様の喜ぶ姿をいつも想像しています。 葱ま鍋の例で言えば、刺身が好きな方もいれば、生の料理が苦手なお客様もいます。そこをお客様の加減で楽しんでもらう。完全に火を入れた方がいいという方は加熱して食べて頂く。脂のあるところなので身は柔らかいですし、赤身と違ってパサパサしていません。火を入れてもトロっと食べられるんです。選択肢はお客様にあってもいいと思うんです。お客様の料理の反応がどうだったのか、ホールのスタッフによく聞いています。

  • 季節ごとに変わる素材を活かした鍋料理季節ごとに変わる素材を活かした鍋料理

メニューを発想するのはどのようなときでしょうか?

休日です。知り合いに会うことのない遠くの温泉に一人で行ったときに考えます。全然知らない土地で、全然知らない人の中で、お風呂に入って考えるとアイデアが出てくるんです。ホテルでの仕事中は、メニューのことは考えたくないんです。目の前と周りの動きだけに集中したい。結局休日も仕事をしていることになりますが、好きなのでしょうがないですね。 あとは、仕事前に市場に行った時なども料理を考える時間ですね。市場に行くのもある意味リラックスタイムです。確実にこれは美味いだろう、という魚を見つけたときは、お品書きを変えて、その日のおすすめとして提供します。

どのようなメニューの変更があるのでしょうか?

例えば、伊東や下田でよく獲れる金目鯛ですが、しゃぶしゃぶ向きだと思ったら「豚肉のしゃぶしゃぶ」を「金目鯛のしゃぶしゃぶ」に変えます。メニューの特別な変更があるときには、必ずお客様に丁寧に説明するようにしています。「今日は豚肉のしゃぶしゃぶの予定でしたが、いい金目鯛が入ったので半レアでいかがですか」というように、ホールのスタッフが食べ方まで説明するんです。ちなみに、私は料理を美味しくするのも、まずくするのもホールのスタッフが鍵を握っていると考えています。例え僕の作った料理が美味しくなくても、笑顔で丁寧に接客をすれば、美味しく感じて頂けるものです。当然逆も然りです。ですので、ホールのスタッフと調理場とのチームワークがレストランでは大切だと思っています。

  • ホールのスタッフの接客が料理の味を引き立てますホールのスタッフの接客が料理の味を引き立てます

チームワークのために特に意識をしていることはありますか?

オンとオフを意識したコミュニケーションを心がけています。気持ちは料理にはっきりと出てしまいますので、仕事中はチームが締まるように毅然とした態度で臨みます。料理のために緊張感は必ず必要なんです。仕事中は集中して、真剣勝負。終わったらリラックス。真面目な話とくだけた話を使い分けて、スタッフたちと接するようにしています。

  • 厨房での榎本さん厨房での榎本さん
  • 厨房での榎本さん厨房での榎本さん

朝食のオープンキッチンではお客様とお話する機会もあると伺いました。

朝食会場では厚焼き玉子とアジの干物をお客様の前で調理しています。卵焼きはお客様もよく見てくださっていて、「この卵はどこの卵ですか」などと聞かれて会話をすることもあります。タイミングが合うときには、席まで自分が持っていくこともあります。料理人がお皿を運んでくるって特別感があって喜んでくれるかなと思うんです。前日の料理の話をすることもありますし、お客様と積極的にコミュニケーションを取るように意識しています。

  • 焼き立てのアジの干物が⾷べられるビュッフェ形式の朝⾷焼き立てのアジの干物が⾷べられるビュッフェ形式の朝⾷
  • 朝⾷の厚焼き⽟⼦。料理⼈の⼿際を間近で⾒ることができる朝⾷の厚焼き⽟⼦。料理⼈の⼿際を間近で⾒ることができる
  • 朝⾷の厚焼き⽟⼦。料理⼈の⼿際を間近で⾒ることができる朝⾷の厚焼き⽟⼦。料理⼈の⼿際を間近で⾒ることができる
  • 朝⾷の湯⾖腐には⾦⽬鯛が。朝⾷の湯⾖腐には⾦⽬鯛が。

これからの目標を教えてください。

料理長として来てから調理場の環境の改善に取り組んできました。ゆくゆくは伊東の食材を開拓していきたいですね。地元の生産者さんと付き合いを深めて、お客様が喜んでくれる新しいメニューを提案していけたらと思っています。

  • 榎本 敏之さん榎本 敏之さん

榎本 敏之 えのもと としゆき
ラフォーレ倶楽部 伊東温泉 湯の庭調理課 青森県青森市出身

  • 感情が味を左右する
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サイドストーリー感情が味を左右する

料理の味の決め手は?そんな問いに世の中の料理人はなんと答えるのだろう。素材?鮮度?センス? 料理長の榎本さんなら「ホールのスタッフの接客」と答えるのかもしれない。一皿を提供する時の印象が料理の味わい方を変える、という話が印象的だった。飲食の世界を知らなければ恐らく考えつきようもない答え。テーブルで料理を待っている場面を想像してみると、確かにそうかもしれないと思った。

「自分が作った料理がたとえ美味しくなくても、スタッフが笑顔で出せば美味しくなるんです。だから調理場とホールとの関係が大切なんです」。料理をお皿の中で完結させず、レストランという空間が丸ごと料理であるかのように客をもてなし味わってもらう。インタビューを通してそんな考え方を知り、榎本さんの料理を食べてみたいという気持ちがじわじわと湧いてきた。

感情が味を左右する 感情が味を左右する

インタビューの翌日、伊東港に撮影に行った。色とりどりできらきらと光る魚介類と同じくらいに、マスクで顔の半分が隠れていても豊かな表情を感じさせる、漁師や仲買人たちの鋭い目に惹かれるものを感じた。ベルトコンベアを流れる大量の魚を選別する目。競りの結果を待ち入札した魚を見つめる眼差し。この人たちが認めた魚を食べてみたい。伊東港にはそう思わせる目をした人がたくさんいた。これもまた、人を食へと導くひとつの感情なのかもしれないと思った。

感情が味を左右する 感情が味を左右する

そのときそのときの感情によって料理の味が変わる。そんなこと考えてもみなかった、と思っていたが、実は苦い思い出だからすぐには思い出せなかっただけで、美味しいはずの料理を食べてもちっとも味のしなかった宴会が過去に何度もあった。嬉しい気持ちは料理を美味しくする。このことを知っただけでも、日々のご飯が美味しくなる気がした。

感情が味を左右する 感情が味を左右する
映像撮影
峰村 博征
映像監督
福村 昌平
写真・文
高重 乃輔

その美味しさに、ついほころぶ

  • レストラン紹介

「ラフォーレ倶楽部 伊東温泉 湯の庭」は、趣深い和モダンのたたずまいで、湯の愉しみと温もりにあふれる宿です。由緒あるいで湯で身体をほぐした後は、中池を望むレストランで伊豆の幸に舌鼓。映像だけでは伝えきれない、ラフォーレで長年培った料理長の経験や日々の探求心とチームワークが織りなす料理をぜひご堪能ください。

「ラフォーレ倶楽部 伊東温泉 湯の庭」
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※現在は感染拡大防止のためマスク・手袋などを着用して調理、接客をしております。